胸張り進む 江陵高野球部 来春閉校 半世紀の歴史に幕

2020/07/27 11:51 十勝毎日新聞電子版
来年3月に閉校する江陵高校(幕別町)野球部の最後の大会が終わった。夏季北海道高校野球大会の十勝支部大会Dブロック代表決定戦が26日、帯広の森野球場で行われ白樺学園(芽室町)に0-9で敗れた。1964年の創部から半世紀余り。2016年夏に古谷優人投手(現ソフトバンクホークス)を擁し、北北海道大会ベスト4に進んだ実力校の選手たちは、最後までひたむきに白球を追い続けた。自分たちが最後の代になるのを承知の上で入学した3年生20人は、谷本献悟監督(39)の教えを胸に次のステージに胸を張って進む。

 試合後、球場の外でユニホームを泥だらけにした選手たちは、笑顔で谷本監督を何度も胴上げした。尾崎太郎主将は「野球を通して人としてどうあるべきか、1人の人間としてどう生きるかを教わった。今後どれだけ徹底してできるかが勝負になる」と話した。

 野球には社会の縮図があるという「球道即人道」。13年春に監督に就任した谷本監督の指導の根本だ。私生活や学校生活の乱れはプレーに表れる。選手は礼儀や気配りなど厳しくたたき込まれた。

 初戦の清水高戦で先発出場した坂上柊平選手の父で、江陵高校野球部保護者会「陵球会」の坂上智大会長(46)=清水町在住=は、わが子の姿に驚いた。昨冬、アルバイト先の人に車で送ってもらった息子は、自宅玄関前に立ったまましばらく家に入ってこなかった。車をじっと見詰め、約50メートル先の角を曲がる時に再度おじぎをした。「ずいぶん礼儀正しくなったんだなと思った」と振り返った。

 先日、プロ野球で1軍デビューを果たした古谷優人投手は「江陵は自分の大きな財産。甲子園に行くよりももっと大きなことを学べたと思う」と話す。

「人生は負けから始まる」
 学校はなくなれど教えは生き続ける。「諦めないで一生懸命にやりきる姿は成長の証し」と目を細めた谷本監督。「負けた時からが人生のスタート。敗れた悔しさかをどう生かしていくか卒業まで厳しく指導していきますよ。勘違いしないよう、美談で終わらせないように」と笑った。

 江陵高野球部として最後の試合を迎え、スタンドでは控え部員と保護者がナインの勇姿を見守り、試合終了後には大きな拍手でねぎらった。

 保護者と一緒にスタンドから見守った若宮栄校長は「20人の選手は閉校を知っていて全国から集まってくれた。後輩がいないため、競争やチーム力でハンディを負うかと思っていたが、チームワークも良く、谷本監督の指導で人間形成にもなった」とし、「試合には負けたが、清々しい終わり方。選手たちが大きく成長して終われたことにほっとしている」と感慨深げに話した。(北雅貴、澤村真理子)